女性に秘めた力 その3
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ラジオから流れる音楽、そして甘い声・・・
甘い声の持ち主は・・・
東京ローズ
「大きなお船の中はさぞかし快適でしょうね。でも、もうすぐ海の底に沈んでしまうと思えば可哀想な気もするわ。今日はいいお天気なのに、何人の水兵さんが命を落とすことになるのでしょうね。」
目的は米軍兵士に妻子や恋人たちのことを思い出させてホームシックに罹らせ、厭戦気分を煽りたてることにあった・・・
1943年、第二次世界大戦中に日本側が米兵の戦意喪失を狙った、米軍向け英語番組「ゼロアワー」が「ラジオ・トウキョウ」から流された。
しかし郷愁を誘う音楽と英語を話す女性DJたちの声は、任務へと向かう船中で放送を聴く米兵たちに愛された。
東京ローズ正体は
アイバ・戸栗・ダキノ
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こんにちは!
めるもです!
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女性に秘めた力 その2
女性に秘めた力 その1
1945年2月、硫黄島の攻略を開始して以来数日間が経過していた。その間、アメリカは日本軍の頑強な抵抗に恐ろしいほどの出血を強いられていた。進攻作戦はいっこうにはかどる気配すらなく、うなぎ上りの損害に軍首脳部は頭を痛めていた。それに拍車を駆けるのが、連日の特攻機による捨て身の体当たり攻撃である。この体当たり攻撃はアメリカ軍からカミカゼと呼ばれて恐れられている死の攻撃であった。
特攻機はレーダーに察知されない海面ぎりぎりをはうようにいつの間にか忍び寄って来る。そして虫一匹入り込めぬほどの濃密な対空砲火を物ともせずに突入して来るのである。彼らは死ぬことをなんとも感じないのか、撃ち落としても撃ち落としても、後から後から湧き出て来る亡者の群れのようにも見えた。
その日の午後、硫黄島の沖合いに停泊している第7艦隊空母キティホークの乗組員は、食堂で遅すぎる昼食を取っていた。船内のマイクからはある放送が始ろうとしていた。まもなくジャズ風の音楽に乗って女性アナウンサーの声が響いて来る。その声はハスキーでちょっぴりセクシーな響きを帯びているようでもあった。明日もどうなるか知れぬ身で沈欝で鬱陶しい限りの彼らにとって、彼女の悩まし気な声は深刻な気分を和らげてくれるようでもあった。だが、彼女のしゃべる内容はちっとも彼らにとって救いのある内容などではなかった。
「ジス・イズ・ゼロアワー・・・フローム・トウキョウ。親愛なるアメリカ軍の皆様、硫黄島攻略ははかどっていますか? 今日はいいお天気なのに、何人の水兵さんが命を落とすことになるのでしょうね。島にはたくさんの日本兵があなたたちを殺そうと待ち構えているのですよ 」
それは彼らの心を絶望の淵に突き落とすような内容であった。だがおかしなことに、彼女のハスキーで悩殺的な声を聞いていると、心をくすぐられるような奇妙な快感を感じるのも事実なのである。それは若い男だけがひしめく戦場心理が作用し、女性を必要以上に美化していたためなのかもしれないが、それだけに彼らの気持ちはよりいっそう複雑であった。なにしろ、黙々と食事を取りながらも、始終、彼らの頭の中を怪し気な魅力を帯びた女性アナウンスの声がひっかき回すのであるから。
「アメリカ海兵隊の皆さん、大きなお船の中はさぞかし快適でしょうね。でも、もうすぐ海の底に沈んでしまうと思えば可哀想な気もするわ。今も特殊潜航艇があなた方の船のすぐ下に忍び寄っていますよ。それに体当たりの飛行機も数え切れないくらい用意されているわ。アメリカの水兵の皆さん、こんなムダな戦争で命を落としてはいけないわ。みなしごになるより、今すぐママのお国に帰った方がお利口さんじゃないかしら」
この魅惑的なハスキーボイスは、海兵たちの日常のことをよく知り尽くしているようなしゃべりっぷりで、末端の兵士の個人情報まで及ぶこともあった。
「第25海兵師団のスミス兵曹さん、明日はあなたの23回目の誕生日よね。少し早いけどお祝いの言葉をプレゼントします。一日でも多く長生きしてね。それと、ビンセント伍長さん、あなたの田舎のスプリングフィールドでは、雪が積もって男手が足りないみたい。それにお父さんの牧場ではまた子馬が産まれたそうよ。無事に帰れてかわいい子馬が見れることを祈ってるわ」
またある時など、攻撃を予告するような放送があった。
「ウルシーのみなさま、ごきげんよう。そこは穏やかで快適なところですね。今夜は面白いプレゼントを用意しています。もうしばらくお待ちくださいね 」
米兵たちは最初、ヒット曲か何かが流れるものと期待していた。しかし彼らの期待は見事に裏切られた。それからきっかり15分後のことだった。海面すれすれに飛んで来た特攻機が停泊中の空母に突っ込んだのである。空母は大音響とともにものすごい火炎を吹き上げた。この攻撃では米兵140名が死傷した。
こういうことが度重なると、魔法の水晶の玉かなんかで、自分たちの行動をすべて見透かされているように思えて来るのも確かで、海兵たちの多くは得体の知れぬ怖さを抱くようになっていた。
だがその一方、彼女の下町を思わせるハスキーボイスからにじみ出る雰囲気に、何とも言えない一種独特の親しみを感ずる者もたくさんいたのも事実であった。このハスキーボイスの持ち主は、ことあるごとに自分を孤児のアンと名乗っていたが、いつの間にかアメリカ兵たちから東京ローズの愛称で呼ばれるようになる。
この放送は「ゼロ・アワー」と呼ばれ、太平洋戦争下に日本軍が行った連合国向けの対外宣伝を目的としたNHKの謀略放送であった。最初、この放送は「日の丸アワー」と呼ばれ、連合軍の捕虜などに軍部が用意した原稿を読ませるというものであった。しかし、日の丸アワーという響き自体が挑発的で、逆に敵がい心を高めかねないとして、後に名称が変えられることになったのである。いずれにせよ、その目的は戦争に対する無意味さを相手の兵士の心に植え込み、戦意を弱めることであった。最初の放送は、1943年の12月2日、午後1時(日本時間)から30分放送されたが、以後、終戦直前まで放送されることになる。
この頃、アメリカ兵の中では、日本に行ったら俺がまっ先に東京ローズとデートするんだぜという冗談が流行っていたらしい。それほど、東京ローズはアメリカ兵の間では人気があった。まさに東京ローズは彼らからしてみると、カリスマ的アイドルと何ら変わることのない存在なのであった。男であれば、例え敵側の謀略放送であったとしても、またその内容がどうであれ、女性アナウンサーの声に一種のロマンを感じてしまうのも自然の人情というものであったろう。アメリカ兵の多くは、東京ローズを一目見たいがために誰もが日本一番乗りを夢見ていたのである。これでは敵の戦意を削ぐどころか逆に士気を高めているようなものであったが、当の大本営では知る由もないことであった。
参考資料
彼女も時代に巻き込まれ魅了された悲劇の女性 東京ローズ
いつの時代にも輝いては消え 永遠に続かない
女性の力は侮れない。
めるも
甘い声の持ち主は・・・
東京ローズ
「大きなお船の中はさぞかし快適でしょうね。でも、もうすぐ海の底に沈んでしまうと思えば可哀想な気もするわ。今日はいいお天気なのに、何人の水兵さんが命を落とすことになるのでしょうね。」
目的は米軍兵士に妻子や恋人たちのことを思い出させてホームシックに罹らせ、厭戦気分を煽りたてることにあった・・・
1943年、第二次世界大戦中に日本側が米兵の戦意喪失を狙った、米軍向け英語番組「ゼロアワー」が「ラジオ・トウキョウ」から流された。
しかし郷愁を誘う音楽と英語を話す女性DJたちの声は、任務へと向かう船中で放送を聴く米兵たちに愛された。
東京ローズ正体は
アイバ・戸栗・ダキノ
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女性に秘めた力 その2
女性に秘めた力 その1
1945年2月、硫黄島の攻略を開始して以来数日間が経過していた。その間、アメリカは日本軍の頑強な抵抗に恐ろしいほどの出血を強いられていた。進攻作戦はいっこうにはかどる気配すらなく、うなぎ上りの損害に軍首脳部は頭を痛めていた。それに拍車を駆けるのが、連日の特攻機による捨て身の体当たり攻撃である。この体当たり攻撃はアメリカ軍からカミカゼと呼ばれて恐れられている死の攻撃であった。
特攻機はレーダーに察知されない海面ぎりぎりをはうようにいつの間にか忍び寄って来る。そして虫一匹入り込めぬほどの濃密な対空砲火を物ともせずに突入して来るのである。彼らは死ぬことをなんとも感じないのか、撃ち落としても撃ち落としても、後から後から湧き出て来る亡者の群れのようにも見えた。
その日の午後、硫黄島の沖合いに停泊している第7艦隊空母キティホークの乗組員は、食堂で遅すぎる昼食を取っていた。船内のマイクからはある放送が始ろうとしていた。まもなくジャズ風の音楽に乗って女性アナウンサーの声が響いて来る。その声はハスキーでちょっぴりセクシーな響きを帯びているようでもあった。明日もどうなるか知れぬ身で沈欝で鬱陶しい限りの彼らにとって、彼女の悩まし気な声は深刻な気分を和らげてくれるようでもあった。だが、彼女のしゃべる内容はちっとも彼らにとって救いのある内容などではなかった。
「ジス・イズ・ゼロアワー・・・フローム・トウキョウ。親愛なるアメリカ軍の皆様、硫黄島攻略ははかどっていますか? 今日はいいお天気なのに、何人の水兵さんが命を落とすことになるのでしょうね。島にはたくさんの日本兵があなたたちを殺そうと待ち構えているのですよ 」
それは彼らの心を絶望の淵に突き落とすような内容であった。だがおかしなことに、彼女のハスキーで悩殺的な声を聞いていると、心をくすぐられるような奇妙な快感を感じるのも事実なのである。それは若い男だけがひしめく戦場心理が作用し、女性を必要以上に美化していたためなのかもしれないが、それだけに彼らの気持ちはよりいっそう複雑であった。なにしろ、黙々と食事を取りながらも、始終、彼らの頭の中を怪し気な魅力を帯びた女性アナウンスの声がひっかき回すのであるから。
「アメリカ海兵隊の皆さん、大きなお船の中はさぞかし快適でしょうね。でも、もうすぐ海の底に沈んでしまうと思えば可哀想な気もするわ。今も特殊潜航艇があなた方の船のすぐ下に忍び寄っていますよ。それに体当たりの飛行機も数え切れないくらい用意されているわ。アメリカの水兵の皆さん、こんなムダな戦争で命を落としてはいけないわ。みなしごになるより、今すぐママのお国に帰った方がお利口さんじゃないかしら」
この魅惑的なハスキーボイスは、海兵たちの日常のことをよく知り尽くしているようなしゃべりっぷりで、末端の兵士の個人情報まで及ぶこともあった。
「第25海兵師団のスミス兵曹さん、明日はあなたの23回目の誕生日よね。少し早いけどお祝いの言葉をプレゼントします。一日でも多く長生きしてね。それと、ビンセント伍長さん、あなたの田舎のスプリングフィールドでは、雪が積もって男手が足りないみたい。それにお父さんの牧場ではまた子馬が産まれたそうよ。無事に帰れてかわいい子馬が見れることを祈ってるわ」
またある時など、攻撃を予告するような放送があった。
「ウルシーのみなさま、ごきげんよう。そこは穏やかで快適なところですね。今夜は面白いプレゼントを用意しています。もうしばらくお待ちくださいね 」
米兵たちは最初、ヒット曲か何かが流れるものと期待していた。しかし彼らの期待は見事に裏切られた。それからきっかり15分後のことだった。海面すれすれに飛んで来た特攻機が停泊中の空母に突っ込んだのである。空母は大音響とともにものすごい火炎を吹き上げた。この攻撃では米兵140名が死傷した。
こういうことが度重なると、魔法の水晶の玉かなんかで、自分たちの行動をすべて見透かされているように思えて来るのも確かで、海兵たちの多くは得体の知れぬ怖さを抱くようになっていた。
だがその一方、彼女の下町を思わせるハスキーボイスからにじみ出る雰囲気に、何とも言えない一種独特の親しみを感ずる者もたくさんいたのも事実であった。このハスキーボイスの持ち主は、ことあるごとに自分を孤児のアンと名乗っていたが、いつの間にかアメリカ兵たちから東京ローズの愛称で呼ばれるようになる。
この放送は「ゼロ・アワー」と呼ばれ、太平洋戦争下に日本軍が行った連合国向けの対外宣伝を目的としたNHKの謀略放送であった。最初、この放送は「日の丸アワー」と呼ばれ、連合軍の捕虜などに軍部が用意した原稿を読ませるというものであった。しかし、日の丸アワーという響き自体が挑発的で、逆に敵がい心を高めかねないとして、後に名称が変えられることになったのである。いずれにせよ、その目的は戦争に対する無意味さを相手の兵士の心に植え込み、戦意を弱めることであった。最初の放送は、1943年の12月2日、午後1時(日本時間)から30分放送されたが、以後、終戦直前まで放送されることになる。
この頃、アメリカ兵の中では、日本に行ったら俺がまっ先に東京ローズとデートするんだぜという冗談が流行っていたらしい。それほど、東京ローズはアメリカ兵の間では人気があった。まさに東京ローズは彼らからしてみると、カリスマ的アイドルと何ら変わることのない存在なのであった。男であれば、例え敵側の謀略放送であったとしても、またその内容がどうであれ、女性アナウンサーの声に一種のロマンを感じてしまうのも自然の人情というものであったろう。アメリカ兵の多くは、東京ローズを一目見たいがために誰もが日本一番乗りを夢見ていたのである。これでは敵の戦意を削ぐどころか逆に士気を高めているようなものであったが、当の大本営では知る由もないことであった。
参考資料
彼女も時代に巻き込まれ魅了された悲劇の女性 東京ローズ
いつの時代にも輝いては消え 永遠に続かない
女性の力は侮れない。
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